古来は神への捧げものとして、中世〜ルネサンスは病気から身を守る薬や魔除けとして、現代ではファッションとして、時代とともに役割を変えた「香り」。その「香り」の発展に合わせて、天然石や陶磁器、ガラスなど様々な素材を用いた香水瓶が生み出された。「香り」がまとう“衣装”のような香水瓶は往時の栄華を今に伝えている。
本展では、3000 年以上の時を経て人と香りが歩んだ軌跡をめぐり、厳選した約80点を展示。時代を彩る3人の貴婦人たちが愛した香りとともに、水晶や瑪瑙などで制作された香水瓶や、神話・愛などを表現した香水瓶、香りのイメージをデザインした19世紀末以降の香水瓶など、香りの器の世界を紹介する。人々の想いが込められた“香りの装い”を楽しもう。
展示内容
1章 貴婦人と香りの広がり
ヴェネチアでは11世紀以降、イスラム世界から貿易を通して貴重な香料がもたらされ、ルネサンス期になると香水をはじめ、石鹸、化粧品が普及する。この流行はイタリア各都市の宮廷にも広がり、フィレンツェでは数多くの香水工房が誕生した。
イタリアの香水をフランスに伝えたのは、メディチ家のカテリーナ・ディ・メディチ(1519-1589)。フランス王アンリ2世に嫁いだ際、ムスクなどを用いた香水レシピをフランスに伝えたと言われている。以後、温暖な南フランスのグラースで、香り豊かな花々から多数の香水が作られた。
その後、宮廷文化をリードしたポンパドゥール夫人(1721-1764)やマリー・アントワネット(1755-1793)によって、フランスで香水文化が発展していく。
貴重な天然香料から生み出された高価な香水は、宝飾細工や繊細なヴェネチアン・グラス、ヨーロッパで製造が始まったばかりの磁器製の香水瓶など贅を凝らした香水瓶に収められ、貴婦人たちは香りに満たされた至福の時間を享受したと伝えられている。
2章 いにしえの香り
古代メソポタミアの地から出土した3000年以上前の最古のガラス器は、香油を入れるためのものだったと考えられ、その頃には既に人と香りの関係が始まっていたことがわかる。古代メソポタミアやエジプトでは、香りは神聖なものとされ、豊かな香りを放つ樹脂や香木を焚き、その香りは煙とともに神へ捧げられた。また、これらの香りを油に移した香膏こうこうや香油は、アラバスターやガラス製の容器に収められ、裕福な人々の間では、客人のもてなしなどに使用された。絶世の美女と謡われた古代エジプト最後の女王、クレオパトラ(B.C.69‐B.C.30)はバラの香りを愛し、その魅惑的な香りと数か国語を巧みに操る才覚で、時の権力者たちを魅了したと言われている。
また聖書においても香料や芳香物についての話がしばしば登場する。なかでも新約聖書には、キリストの誕生を知った三人の博士たちがそれぞれ黄金、乳香、没薬を携え、星の導きで東方より礼拝に訪れた話が記されている。乳香や没薬はカンラン科の樹木から採れる樹脂性の香料で、当時は黄金に匹敵するほどの価値があったと言われた。
3章 東方からの香り
西ローマ帝国の滅亡(467年)後、ヨーロッパには長らく暗黒時代が訪れる。一方、古代ギリシア・ローマの文化、技術を引き継いだイスラム世界は、西はモロッコから東は中央アジアまで、その勢力圏を急速に拡大。その結果、人やモノをはじめ様々な知識が集中し、ガラス製造をはじめ、アルコールや香りの蒸留に関する技術が発達した。領土各地で産出された香辛料や香料も広く流通することになる。
イスラム世界の人々が特に好んだ香りが、バラとムスク(麝香)だった。バラの香りを移した水(バラ水)を口の細い瓶を用いて床に撒いたり、客人に振りかけたりなど、芳しい香りでもてなしたと言われている。
この優雅な香りの文化は、ビザンチン帝国皇女テオドラ・デュカス(1058‐1083)と第31代ドージェ(提督)ドメニカ・セルヴォの婚礼でヴェネチアにもたらされる。香りの文化は瞬く間にヨーロッパ中に広がり、多種の香料やバラ水が東方から輸入された。7回に及ぶ十字軍の遠征によっても、人々の関心は東方世界に向き、医学、薬学、香りの製造法などの知識がヨーロッパに広まって、ルネサンス時代の到来につながっていく。
4章 新たな時代の香り
19世紀後半から20世紀初頭は、まさに新たな香水の始まりの時代だった。それまで天然香料から生み出されていた香水が、科学技術の発達によって合成香料が誕生し、大量生産が可能になったため、王侯貴族の世界から市民社会に広く開放されていく。
香水メーカーは、流行に合わせて新たな香りを次々に開発し、イメージに沿った香水瓶をデザイナーに発注。ラベルや箱、広告展開に至るまでブランド戦略を練り、香水分野は、ファッション業界の一大産業に発展していった。
特に気密性が高く大量生産が可能なガラス製香水瓶の需要は高く、フランスを代表するガラスメーカーのバカラ社をはじめ、エミール・ガレやドーム兄弟が芸術性の高い香水瓶を手がけた。また、宝飾デザイナーであったルネ・ラリックは、アール・ヌーヴォーやアール・デコといった時代の流行を取り入れるだけでなく、デザイン性の高い香水瓶を多数生み出し、香水とそのメーカーブランドの価値をさらに高めた。
開催日 | 2024年7月19日(金)2025年1月13日(月) |
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会場 | |
所在地 | 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原940-48 |
アクセス | 「箱根湯本」駅からバス〈桃源台行き〉で25分、「俵石・箱根ガラスの森前」下車 |
TEL | 0460-86-3111 |
ホームページ | https://www.hakone-garasunomori.jp |
営業時間 | 10:00〜17:30(入館は〜17:00) |
休館日 | 毎年成人の日の翌日から11日間休館 |
料金 | 〈大人〉1,800円 〈大高生〉1,300円 〈中小生〉600円 |
施設情報 | カフェレストラン・ミュージアムショップ・水車小屋「アチェロ(オリジナル菓子のお店)」・体験工房 |
駐車場 | 有り(1日300円) |
支払い |
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更新日 : 2024.07.30